第4回「COSIA体験ワークショップ」開催報告
市川洋(教育問題研究会)、今宮則子(海の自然史研究所)
日本海洋学会ニュースレター第5巻第2号 11頁-12頁
(2015年8月発行掲載記事)
1.はじめに
「海の自然史研究所」は、米国カリフォルニア大学バークレー校に所属する科学者と科学教育の専門家により、海洋に関連のある科学を専攻する学部生や大学院生などを主な対象として開発されたCommunicating Ocean Science to Informal Audiences (COSIA)を我が国で普及・推進する活動の一環として、全国の大学などで海洋科学コミュニケーション実践講座(全10回)を実施している。教育問題研究会は、これまで3回の学会期間中にCOSIA体験ワークショップを開催して、会員、特に大学院学生と若手の研究者・大学教員が今後のプレゼンテーション・授業・アウトリーチ活動に有用な情報を学ぶ場を提供してきた(詳細は参考に挙げた資料を参照されたい)。それに引き続き、第4回体験ワークショップを2015年度春季大会研究発表最終日である3月24日の16時30分から18時に東京海洋大学講義棟31番講義室で開催した。以下に、本ワークショップの概要を報告する。
2.概要
海洋学会MLでの開催案内に応じて事前登録した会員は4名と少数であったが、結局、12名(内5名は教育問題研究会会員)が参加した。ワークショップは、都築章子(海の自然史研究所)が講師となって「学習者の多様性に配慮した学習環境をつくる」という主題の下で3つのグループに分かれて進められた。これまでの学校での学習の場で各自が感じた疎外感について、各自が沈思黙考を3分間した後、その思いを隣り合った2人で語り合い、さらにその内容をグループ内で話し合うというThink-Pair-Shareの方法で「学習者の多様性」について認識を深めた。次いで、スペイン語による、言葉だけの説明、文書を加えた説明、図や身振りを加えた説明の体験を通して、「学習者の多様性に配慮した学習環境をつくる」ことの重要性を実感した。最後に、配布された「学習者の多様性に配慮した学習環境のあり方」についての解説資料を読み、各グループ別に与えられた教材の問題点を議論した。以下に、これらの実施内容について2名の参加会員から頂いた感想を示す。
参加会員(教員)の感想
小針 統(鹿児島大学水産学部)
学術的な研究活動に加えて、発達・適応障害学生や留学生への細やかな指導、一般市民に対する海洋科学の啓蒙・広報活動、受験者確保のための営業・広報活動が普通になった私の勤務先では、科学コミュニケーション力はもはや当然あるべき技能となりました。しかし、これまで体系的に学ぶ機会が少なく、独学と経験で修得する術しかなかったので、今回のCOSIA体験ワークショップに参加した次第です。
このワークショップに参加してみると、若手よりも中堅の参加者が多かったのは意外でした。このワークショップでしか得られない体験や情報があって、予想以上に充実した時間となりました。特に、聴衆の多様性を考慮しないとまるで何を言っているか分からないことが実感でき、自分の講義や実験を受講している学生たちはこんな気分だったのだろうかと恥ずかしくなりました。人前で説明する経験はそれなりに積んだつもりでいましたが、まだまだ改善しなければならないと心の底から思いました。
応募殺到で今後私の余席がなくなるのを懸念しているのですが、教育や広報活動に携わる海洋学会員のみなさまに、海洋科学コミュニケーション実践講座体験ワークショップへの参加を強くお勧めします。この年になって新しい経験・体験・驚きがあるということは、とても新鮮です。
参加会員(学生)の感想
日原勉(東海大学大学院 地球環境科学研究科)
私がCOSIA体験ワークショップに参加しようと思ったきっかけは「従姉妹からの相談」でした。今年の元旦、私は従姉妹から大学進学について相談を受けました。彼女は、現在高校2年生で、まだ、学びたいこと、働きたいことが決まっておらず、大学進学を迷っていました。そんな彼女から「どのように大学を選べばいいか」と相談を受けました。私は、「海に関わること」を彼女の選択肢に加えたいと思い、海の魅力を彼女に伝えようとしました。しかしながら、どうすれば魅力が伝わるのかよく分からず、十分に伝えられたという実感は得られませんでした。そこで、COSIA体験ワークショップを受けることで、海の魅力を伝えるコツを会得したいと思い、参加を決断しました。
今回のワークショップでは、いくつかの体験をすることで、教わる側の視点から物事を考える大切さを実感しました。最も考えさせられた体験は、「スペイン語での出題」でした。突然、講師がスペイン語で話し始めると、全参加者が唖然とし、室内は静まりかえってしまいました。2回目の説明で文字が加わり、3回目の説明で、図と身振り手振りが加わると、瞬く間に室内が活性化し、様々な意見が上がって問題を理解し、正答に達することが出来ました。
この体験から、スペイン語が分かる人には簡単な言葉でも、そうではない人には全く理解不能であるように、海の知識が無い人に対して、言葉や文字だけで海の魅力を伝えることがほぼ不可能であることを学びました。そして、図はもちろんですが、何より「身振り手振り」が、どれほど受け手に重要な情報であるかを知ることができました。私は、今回のワークショップを通じて、今後、平易な言葉と図を使い、身振り手振りを交えて話す方法を身につけ、将来、海の専門家の一人として、少しでも多くの人に海の魅力を伝えていきたいという想いがより強くなりました。最後に、思い立ってCOSIAに参加して本当に良かったと感じています。本ワークショップを開催して頂きました、日本海洋学会教育問題研究会とNPO法人海の自然史研究会のみなさまに感謝申し上げます。
3.おわりに
終了後におこなったアンケート調査での時間配分についての評価は「適切であった」と「短すぎた」に分かれたが、開催場所と時期については、参加者の多くから今回の場所と時期が適切であるとの回答を得た。これは、前回の2014年度春季大会では、全研究発表終了後の17時30分から19時30分の開催であったのに対し、今回は大会事務局のご配慮で終了時刻を18時とすることができ、教育問題研究会会員以外の会員の参加が前回の3名から7名へと大幅に増加したことと符合しているように思う。内容については全員から高い評価をいただいた。実際の海洋科学コミュニケーション実践講座で行われる全10項目の中では「海洋科学を伝える」と「探究する心、ディスカッションを進める」に各々9名と多くの参加者の関心を集めた。これらの回答に力を得て、今後も本体験ワークショップ開催を継続する予定である。次回の体験ワークショップにも、多くの会員が参加されることを願っています。
最後に、本体験ワークショップを開催するに当たり、会場の手配その他について多大なご助力を頂いた日本海洋学会2015年度春季大会実行委員会の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
参 考
「海の自然史研究所」COSIA解説サイト:http://www.marinelearning.org/cosia/
過去の体験ワークショップの記録:http://www.jos-edu.com/COSIA.htm
市川洋・今宮則子(2013):体験ワークショップ開催報告,JOSニュースレター,第3巻第1号,10-11.(http://kaiyo-gakkai.jp/jos/newsletter/2013/2013_v3_n1.pdf)
市川洋・今宮則子(2014):第2回「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」開催報告,JOSニュースレター,第3巻第4号,10-11.(http://kaiyo-gakkai.jp/jos/newsletter/2013/2013_v3_n4.pdf)
市川洋・今宮則子(2014):第3回「COSIA(海洋科学コミュニケーション実践講座)体験ワークショップ」開催報告,JOSニュースレター,第4巻第3号,10-11.(http://kaiyo-gakkai.jp/jos/newsletter/2014/2014_v4_n3.pdf)