海のサイエンスカフェ

日本海洋学会教育問題研究会



第8回海のサイエンスカフェ開催報告

【開催要項】
話  題: 海月(クラゲ)の海から-上を向いて泳ごう-
話題提供:藤井直紀さん(佐賀大学低平地沿岸海域研究センター)
進  行: 市川洋(独立行政法人海洋研究開発機構)
日  時: 平成23年10月1日(土) 11時から13時
場  所: TAO カフェ(住所:福岡市中央区清川1-8-8)
主  催: 日本海洋学会教育問題研究会
共  催: 「地球環境アジアワークショップ」サイエンスカフェ事務局
協  力: 九州大学大学院工学研究院環境流体力学研究室
後  援: 佐賀大学低平地沿岸海域研究センター
担  当: 清野聡子(九州大学大学院工学研究院環境流体力学研究室)

 【参 加 者】 
一般市民(20名)、教育問題研究会会員(6名)、合計26名

 【話題提供者からのメッセージ】
 これまでに開催された「海のサイエンスカフェ」は,物理を通した海洋学の話題が多かったが,今回は初の「生物」からみた海洋学の話題となった。私の専門は生物海洋学の中で特にクラゲ類・クシクラゲ類の生態学的研究であるため,「クラゲ」を中心に話題提供した。クラゲ類は近年,大量発生することによって沿岸海域に多大な影響・被害を与えている。そのため,日本では多くの研究者が「クラゲ研究」に従事し,ここ数年でかなりの研究成果があがっている。当初,本サイエンスカフェでもその話題をと考えていたのだが,開催地である博多の近海では,幸い「クラゲ大量発生」による被害はないため,「クラゲの基礎的な生態学」を中心とした内容で構成した。
  私はこれまでに市民講座などの一般の方向け講演会を行った経験が何度かあったため,それほど緊張することも無く,話をすることができたが,あまりに多くのことを話しすぎ,時間を大幅に超過してしまい,司会進行の市川さんには大変ご迷惑をおかけした。準備段階で「内容を絞って」とのご指摘を頂き,準備をしたつもりであったが,やはり後から見直してみると話が発散気味であったような気がしている。次回,このような機会があれば考慮したい。
 さて,話題提供のあとは,それぞれ海洋学会関係者が各一人一テーブルに着いて参加者とのディスカッションを行った。私のテーブルでは,クラゲの話を中心に,クラゲの生活史・利用方法・他の生物との関係・近くの海(博多湾や有明海)の話,最終的には数億年前の海のことなどに話が発展した。話題提供者のテーブルだけあって,私が一方的に話をするのではなく,話題のふりは参加者の方からであり,なかなか楽しい対話であった。また,2011年の最も大きな関心事である,「東日本大震災」や「原発事故」についての質問も受けた。これに関しては,海洋学会ナイトセッション「東日本大震災と海洋学会震災対応ワーキンググループの活動」(2011年9月29日開催)で拝聴した話しか私の知識になかったため,少しの話にとどめた。今後しばらくはこの話題が「海のサイエンスカフェ」のディスカッションに挙がることだろう。
  最後になるが,ご参加頂いた皆様,準備をして頂いた「地球環境アジアワークショップ」サイエンスカフェ事務局,海洋学会教育問題研究会の皆様に感謝申し上げます。 (藤井直紀)

【担当者からのメッセージ】
  一般参加者の方々は「第8回海のサイエンスカフェ」をとても楽しんでいただいたようです。最初は半信半疑でしたが、クラゲをはじめとする海洋学者たちのちょっとマニアックな熱弁におおいに盛り上がりました。参加者も、好奇心旺盛でテンションが高く、主な話題のクラゲのほか、震災関連で、海流の基礎、海洋中での物質の拡散や蓄積などについて、研究者からどんどん楽しいお話を引き出してくれたように見えます。
 科学コミュニケーションでの「ライブ」の面白さは、質の高い参加者を得ることだと改めて思いました。前日の海洋保護区シンポジウムに参加した大分、愛知の方々にも、サイエンスカフェの内容をとても楽しんでいただきました。特に、海や川での子供の観察会を主催し、海や川を調査するNPO活動とインタープリテーションについての経験豊かな方々でしたが、研究会会員の科学の話題だけでなく、研究する人の人生に関する根掘り葉掘りの質問に対する人柄や垣間見える人生観のお話も大変楽しかったとの感想をいただきました。海にかかわるNPO活動などでは、参加者から次々と受ける多分野の質問に対して最新の知見や考え方を伝えることができる研究者とのつながりを持っていることがとても大事です。サイエンスカフェは自費参加でしたが、この「つながり」がお土産になったかもしれません。
 私は「海のサイエンスカフェ」における話題と参加者のマッチングも未知数なまま企画に関わりました。参加者集めの規模として「20名、申込無し、会場に入れなかったらごめんなさい」は周知の方法が難しいと思いました。広く告知すると定員をオーバーする懸念もありました。そこで、海関係の知人を中心に周知をじわじわと広げ、参加者数を確実に確保する作業になりました(主催側になると、内容以前にこの運営に腐心することが多くなります)。特に秋季はイベントも多く、土日はアクティブな参加者の取り合いになってしまうのが実状です。10月1日はフィールドイベントやスポーツではまさに絶好の時期で、福岡の知人のかなりが、自分で主催するイベントをすでにもっていました。このため、海洋の一般的な話に自由な好奇心で取り組んでくれる人として、海についての活動を近年始めた人へのアプローチを考えました。海ゴミのクリーンアップの全国イベントである「24時間テレビ 日本をきれいにするプロジェクトin 博多湾」を2011年から、福岡市内の複数の大学で立ち上げられたグループに協力を依頼しました。福岡放送の樋口さんとリーダーの西南学院大学4年の黒瀬さん、九州大学3年の仁位さんに、「海のサイエンスカフェ」の企画を話しました。ちょうど、海ゴミの話題から派生して、地球環境、アジアとの海を介したつながりなどを議論していたメンバーが「地球環境アジアワークショップ」を任意団体としてつくる機運があり、「海のサイエンスカフェ」を是非共催しましょうとのことになりました。
  課題は、交通至便な所にあって、かきいれ時の土曜日の昼間にお茶しかオーダーしない、という条件で席を予約できる開催場所を確保することでした。この課題を解決するためには、特に大都市では協力者の理解が不可欠でした。様々な分野の職種のプロの交流の場も提供しているNPOが経営されているレストラン「TAO」が協力してくださいました。
 夏の海ゴミのイベントに参加していた福岡市内の大学生の方々にも参加していただきました。海岸のクリーンアップに必要な博多湾や日本海の話を伝えるレクチャーは行ってきましたが、もっと多分野の海の話を聞いてもらう機会と考えました。
 私は海岸や干潟の観察会、エクスカーション、教育イベント、地域シンポを各地で多く開催してきました。海ゴミのクリーンアップ活動をしている全国的な団体のJEANや地域のNPOや環境教育者と共に、海ゴミをテーマにしたサイエンスカフェを、2010年から山形県酒田市、沖縄県石垣島などで開催してきました(http://www.icataquo.jp/umigomi/)。このサイエンスカフェの目的は、海ゴミの科学研究を地域にフィードバックし、問題解決や地域での共同運営者の人材育成につなげるサイエンス・コミュニケーション自体を研究することです(環境省環境研究推進費による研究「海ゴミによる化学汚染物質輸送の実態解明とリスク低減に向けた戦略的環境教育の展開」代表 磯辺篤彦愛媛大学教授、サブテーマ3「海ゴミリスクの低減に向けた環境教育スキームの構築に関する研究」担当 清野聡子)。開催地を、海ゴミ問題が深刻な中規模の都市や村落とした場合、ある程度この問題に関心のある人のみが参加されていました。全くのフリーライダーを獲得するには、それなりの派手さが必要です。サイエンスカフェは、他のイベントとちがい、じっくりと集中的な議論になるので、実は集客には工夫がいるように思っています。
  私にとって、これまでのサイエンスカフェというスタイルの科学コミュニケーションの実施は、実は試行錯誤の途中でした。正直なところ「サイエンスカフェ」という名前自体がハードルを高くしてしまい、上記のスタイルでは盛り上がるグループや友人も、今一つ、共同開催には食指が動かない感じでした。「サイエンスは学者がやることで自分たちは関係ない、講演会やイベントなら是非行きたい」という声も多く、海ゴミ問題について研究者が地域の協力者や行政担当者と語る場を集会所や協力者の家にセットし、かなり具体的な議論や情報共有まで進むという”事実上のサイエンスカフェ”を行ってきたのですが、最初からサイエンスの名を掲げると足が遠のくという感想をお聞きしていました(科学者としては、サイエンスという言葉が敬遠されるのを直接聞くのも驚きですが、サイエンスの面白さを知ってもらうには、やり甲斐があることかもしれません)。しかし、サイエンスカフェと銘打つ以上、サイエンスに漠然とでも興味のある層がある程度の人数が居ることが、催事として成立するには必要だと思います。
  「海のサイエンスカフェ」の開催予定を大学や福岡の知人に伝えたところ、実は福岡でもサイエンスカフェや夜話が近年行われて、情報化も進んでいることを知りました。  
 
・Q Café 九州大学の有志学生および有志教員によるサイエンスカフェhttp://d.hatena.ne.jp/Qcafe/
・サイエンスパブCafepedia 山岡均氏(九州大学天文学教員)による科学夜話(2008年より47回開催)
・Science for All Fukuokas ネットワーク(SAFネット) 福岡県における科学コミュニケーション推進のネットワークhttp://www.safnet.jp/  

などの存在がわかりました。「海のサイエンスカフェ」実施後にこれらの開催者とお会いする機会がありましたが、「海」に対する関心も高く、今後、他の学術分野とのセッションも出来そうで楽しみにしています。福岡は何より海に近い大都会が広がり、美しい沿岸地域が連なり、玄界灘、瀬戸内海、有明海と多様な海を有しています。また佐賀をはじめ九州全土は、海無しには語れません。今後も、何等かのスタイルで「海のサイエンスカフェ」を展開していきたいと思っています。
  今回、海洋学会のサイエンスカフェをお手伝いさせていただいたことで、従来とは違う展開のアイデアや、知人の広がりができました。開催前に健康上の理由で充分フォローできず申し訳ございませんでした。しかし、教育問題研究会や共催者の皆さまのお力で、無事、開催することができました。どうもありがとうございました。 (清野聡子)

 【進行、主催者からのメッセージ】
  2011年度日本海洋学会秋季大会が九州大学春日キャンパスで開催されるのに合わせて、「第8回海のサイエンスカフェ」を福岡地区で開催することになり、その準備を教育問題研究会員であって関係諸団体との交流に実績のある九州大学の清野さんにお願いした。地元ではサイエンスカフェがあまり普及していない状況で、清野さんのご尽力により、「地球環境アジアワークショップ」サイエンスカフェ事務局が周知、参加者確保と会場設営を担当し、教育問題研究会が主催して、話題提供を教育問題研究会会員で「海のサイエンスカフェ」への参加経験が豊富な藤井さん(佐賀大学)にお願いし、筆者が進行を担当することになった。
  定刻の11時前に「地球環境アジアワークショップ」と教育問題研究会の各々が用意したアンケート用紙を配り、記入をお願いした。一般参加者の自己紹介と研究会会員の専門分野の紹介の後、藤井さんの話題提供が始まった。その後、5名の研究会会員(藤井、岸、松野、町田、筆者)の一人と3または4名の一般参加者で構成される小グループ別に5つのテーブルに分かれて懇談した。12時30分頃から各グループの懇談内容の紹介をおこなった後、アンケート記入・提出をお願いして、予定のプログラムを終了したが、暫くの間、参加者の間で交流が続いた。
 一般参加者は地元福岡県の大学生と社会人の他、佐賀・大分県の方、前日に開催されたシンポジウム「2012年海洋保護区国際ネットワーク形成にむけた日本の方向性」に参加されていた九州外の方など、多彩であった。藤井さんのお話しは非常に丁寧な説明で、参加者の多くから「良く理解できた」、「だいたい理解できた」と評価されていた。サイエンスカフェ全体についても、「日ごろ聞けないところを詳しく聞けて良かった」、「楽しかった」などの高い評価を受けた。ただし、「話題提供の時に少しずつ質問できたら良かった」、「研究会員の専門分野が張り出してあれば、席移動の参考になった」、「椅子配置が不適切で、司会者が見えなかった」などのご意見があった。今後の参考にしたい。
  今回の「海のサイエンスカフェ」を契機として、福岡・佐賀の地に海の専門家と一般市民との対話の場が広がることを願っている。  (教育問題研究会サイエンスカフェ担当:市川洋)