海のサイエンスカフェ

日本海洋学会教育問題研究会



第13回海のサイエンスカフェ

「海の砂漠の不思議に迫る!」

~栄養の少ない熱帯・亜熱帯海域の生物活動が地球環境の鍵を握る?~

話題提供: 橋濱 史典(東京海洋大学)

進行: 川合 美千代(東京海洋大学)

日時: 平成26年3月30日(日曜日) 10時00分-12時00分

場所: ヴァージンカフェ品川

主催: 日本海洋学会教育問題研究会

担当: 上野洋路・川合美千代

【参 加 者】15名(社会人・学生:6名、海洋学会会員:9名(うち教育問題研究会会員:7名))


【話題提供者からのメッセージ】

 「海の砂漠の不思議に迫る!」~栄養の少ない熱帯・亜熱帯海域の生物活動が地球環境の鍵を握る?~というタイトルで話題提供させて頂きました。まず、「海の砂漠」とは何かを知ってもらうために、海にはいろいろな場所があること、表層の温かい水と深層の冷たい水は混ざりにくいこと、深層からの栄養供給により光が届く表層で植物プランクトンが増殖することなど、海洋学の基礎的事項について解説しました。次に、栄養供給が少なくて植物プランクトンの量も少ない熱帯・亜熱帯海域の表層が「海の砂漠」であることを説明しました。「海の砂漠」の栄養成分 (栄養塩) の濃度は極めて低いことを理解してもらうために水質の簡易分析製品「パックテスト」を使った簡単な比色分析実験を行いました。東京湾の水と亜熱帯海域の水とでは、色の濃さが全く異なり、亜熱帯水は無色で栄養塩濃度が極めて低いことを実感してもらいました。その後、最近になって高感度比色分析により「海の砂漠」の栄養塩濃度が測れるようになってきたこと、「海の砂漠」の中でも場所によって栄養塩の濃度が違うこと、日本の周りにはリン酸塩枯渇域があること、リン酸塩枯渇はダスト供給、窒素固定生物 (窒素ガスを利用して増殖できる生物) に密接にリンクすることなどについて解説しました。また、地球温暖化に伴う「海の砂漠」の物質循環像の変化について参加者の方々と議論しました。最後に、「海の砂漠」は変化の乏しい場所ではなく、地球環境の変化にとても敏感な場所で、今後も継続的なモニタリングが必要であることを話しました。
 全体の構成の中に簡単な分析実験を取り入れたことは、一般に馴染みの薄い「栄養塩」を理解してもらう上で成功だったかなと思っています。ただ、「海の砂漠」をよりよく理解してもらうために、海洋学の基礎的事項の解説に時間をかけ過ぎてしまい、結果として談話の時間が少なくなってしまいました。私の話題に関して参加者の方から鋭い質問があり、私も勉強になった部分が多く「サイエンス」としては良かったと思いますが、今回は「サイエンスカフェ」なので、もっとゆっくりお茶を飲みながら参加者1人1人と談話する時間があっても良かったと思います。一般参加者に専門的事項を理解してもらうためにはそれなりの時間が必要だと思いますので、専門的事項まで理解してもらうためにはもう少し時間を増やしても良いかなと思いました。2時間程度で終わらせるには、話題の内容にもよりますが、海洋学の基礎的事項の解説にとどめて談話の時間を増やすのも無難かと思いました。
 個人的には、これまで大学生をはじめ小学生や中学生を対象とした講義を行った経験がありましたが、高校生以上の一般の方を対象に解説、議論したことは初めてで、とても良い経験になりました。教育問題研究会の皆様には、このような貴重な機会を与えて頂き、誠にありがとうございました。また、川合さん、上野さんには配付資料作成において的確かつ丁寧なアドバイスを頂きました。お忙しいところどうもありがとうございました。

(橋濱 史典)

【進行担当者からのメッセージ】

 当日の雨の影響があったのか、今回のサイエンスカフェは一般参加者6名と少人数でしたが、リピーターの方や、高校生、大学生の参加もあり、和やかな雰囲気で進めることができました。
 初めに参加者の簡単な自己紹介、続いて橋濱さんによる話題提供、最後に30分程度のフリーディスカッションがあり、終了となりました。話題提供については、橋濱さんが時々笑いを取りながら平易な言葉で話して下さいましたし、初めに基本的なところを丁寧に説明した後に最新の結果を紹介するという構成も良く、とても分かりやすかったと思います。アンケートの結果でも「ほとんど理解できた」「よく理解できた」という回答となっていました。また、全員が「目から鱗の驚きがあった」と回答していました。特に、トリコボールという不思議な生物の塊に興味を持った方が多かったようです。また、様々な水の栄養塩濃度を簡易キットで測定するという実験に参加してもらったことで、皆さんの表情が一気に柔らかくなり、全体の一体感が増したように思います。簡単な実験などの体験型コミュニケーションは、今後のサイエンスカフェでも積極的に取り入れていきたいと思います。最後のフリーディスカッションでは、一般参加者全員から数多くの質問がありました。橋濱さん以外の学会員の方も分かりやすい説明を加えて下さり、皆さんの理解が一層深まったようでした。
 反省点としては、話題提供が1時間弱と長くなってしまったことが挙げられます。このため、グループに分かれての懇談の時間を設けることができませんでした。一般参加者と海洋研究者が様々な話題に関して話をする機会としては、やはりグループ懇談の時間があるべきだと思いますので、次回はこの点に気を付けたいと思います。また、参加者を増やすため、宣伝に力を入れることも必要でしょう。近郊の高校や大学にポスターを掲示してもらうなどの工夫をしていきたいと思います。
 今回も、会場とさせていただいたヴァージンカフェ品川では、予約時間前の入店、飲み物のスムーズな購入やBGMの調整など様々な面でご配慮を頂きました。心から感謝申し上げます。

(川合 美千代)