ブース出展報告
市川洋(教育問題研究会)
2015年11月13日から15日まで東京お台場地区を主会場としてサイエンスアゴラ2015が開催された。教育問題研究会は、このイベント期間中の14・15日に企画展示ブース「私たちの生活と海の研究(ブース番号:Da-312)」を出展した。以下に、このブース出展の概要を報告する。
サイエンスアゴラ2014の出展ブースの説明を担当した会員は、多くの子どもたちと接して得た経験から、2015年度もブースを出展したいと考えていた。ただし、2015年度活動計画では、サイエンスアゴラ2015のテーマ、公募要領が発表された後に最終的な判断をすることとしていた。4月24日に公示されたサイエンスアゴラ2015参加企画公募の中に示された今年のテーマは「つくろう、科学とともにある社会」と、教育問題研究会が出展するのに相応しいイベントであった。立会説明参加予定者の確保に目途も立ったので、2014年度と同様な内容のブース出展企画を作成し、公募に応募することとした。
5月20日に学会MLで学会会員に、教育問題研究会内で作成した参加企画原案を提示して、ポスター出展および立会説明参加を呼びかけた。一般会員からの応募者は皆無であったが、研究会内部で企画案の細部の検討を進め、6月1日に出展企画を申請した。
7月1日に提案企画の条件付の採択通知を以下の審査コメントとともに受けとった。
提示されたブースが、昨年のメイン会場ではなく、ちょっと離れた東京都立産業技術研究センターであること、ブースの幅が申請時の4 mから3 mと一回り狭くなる、という条件付きであったが、この「採択条件」に同意して企画提供を承諾する旨を回答し、本格的な準備作業を開始した。
サイエンスアゴラのウェブサイトに掲載したブース出展の趣旨は以下の通りである。
世界の海は水産漁業、海上輸送、海辺でのリクリエーション、台風などの気象現象、海洋エネルギー利用、気候変動、などを通して私たちの生活と強くつながっています。しかし、海については、まだまだ分かっていないことがたくさんあります。世界中の研究者が観測船、人工衛星、コンピュータなどのさまざまな道具を使って海のなぞに挑戦しています。
現在の小中学校では海洋に関わる教育はほとんど行なわれていません。この結果,国民の多くは,海で起きている複雑な自然現象が人間の活動に強い影響を与えているとともに,人間の活動が微妙な釣り合い状態にある海の環境に取り返しのつかない影響をおよぼす恐れのあることを学ぶ機会が失われています。本企画は、身近な海についての基礎知識を小学生以上の一般参加者と科学コミュニケーターに紹介することと、社会における海洋教育と研究のあり方について海洋学者と一般参加者との間で意見・情報を交換することを目指しています。
学生から大人まで、紙芝居や絵本を見たり、ゲームをしたり、お台場の海のプランクトンを観察したり、海洋学者とお話したりしながら、海のことを楽しく学び、そして考えましょう。
この趣旨にそって、幅3 m、奥行き3 mのブース内で、14・15日の2日間、毎日10時から17時まで、以下の展示・実演を行った。
サイエンスアゴラ2015ウェブサイトに掲載された開催報告によると今回の出展数は195件(169団体)で、参加者数は9,145人(その中で一般参加者は7082名)であった。割り当てられた展示ブースがメイン会場から離れた東京都立産業技術研究センターであったこともあり、来訪者数は推定200名で、昨年に比べてかなり少なかったが、ブースに来訪した親子、出展者、関係者に、海について考える機会を提供することができたと思う。以下に、担当者の寄稿を示す。
乙部弘隆(元東大海洋研)
昨年に引き続いて今年もサイエンスアゴラで紙芝居を演じさせていただいた。教育問題研究会の一員として幼児や小学生に少しでも海を身近に感じてもらいたいと願っていたところ、退職直後に神奈川県広報の紙芝居作成講習会の記事を見て受講したのが紙芝居を演じる動機となった。講習会は各自好きなテーマで作成し(文、画とも)皆の前で演じるというものである。そこで考えたのが「おにぎりとうみ」である。家族が海水浴の昼飯におにぎりを食べているときお父さんがクイズ形式でおにぎりの素材がすべて海に関係あることを誘導して理解させるという展開である。海の恵みとして食糧だけではなく、食塩や水循環なども含まれる。毎年東大大気海洋研オープンキャンパスや真鶴小学校の授業等で演じさせてもらっている。
今年のサイエンスアゴラでは一日3回、2日間演じた。平均して客の入りは昨年と同程度であったが、時間帯でバラツキがあるのは催しの性格上致し方ないようである。開始5分前から拍子木をたたいて会場を回り客引きするのも楽しみである。近所の出展ブースも客を取られないよう声が大きくなるのも面白い。熱心に見てくれた子供たちがおにぎりを食べるときこの紙芝居を思い出してくれればと願っている。
池上隆仁(海洋生物環境研究所)
サイエンスアゴラ2015は教育問題研究会に入会して初めての活動でした。まず、やってみなければ始まらないとの思いから参加しました。
実演展示では主にプランクトン観察を担当しました。来場者には東京湾のプランクトンを実体顕微鏡で、北極海の珪質殻プランクトンを生物顕微鏡でそれぞれ観察してもらいました。観察したプランクトンについてさらに興味をもってもらうため、プランクトンの写真とともに名前や特徴を書き込むポストカード作成体験も盛り込みました。まずは、細かい説明無しで顕微鏡をのぞいてもらい、普段目にすることのない小さな生きものを観察したときの驚きや感動を体験してもらうことに重点を置きました。さらに興味を持ってくれた来場者には、プランクトンが地球上の物質の循環に大きな役割を果たしており、めぐりめぐって私たち人間の生活にも大いに影響を与えていることを話す機会でもありました。しかし、来場者の多くは、顕微鏡をのぞくだけにとどまり、興味を持って質問をしてくれた方は半分くらい、ポストカード作成まで体験してくれる人はほんのわずかでした。時間をかけて準備していただけに、残念なこともありましたが、次回に向けた課題が見つかり、教育問題研究会の一員として一歩を踏み出すことができました。
サイエンスアゴラには様々な形でサイエンスコミュニケーションを実践している方々が集まります。展示や懇親会への参加を通して、学会の研究発表会とはまた異なる交流ができたのも今回参加して大変良かったことです。
ブース出展では、一部の来場者と対面で様々な対話をゆっくりとできた点では非常に有効であったが、プランクトン観察以外の実演とポスターの説明をおこなう機会は限られていた。終日のブース展示よりも短時間のセッション枠あるいは特設ステージでの実演・ショートトークを主とした企画の方が良いかもしれない。形はどうあれ、サイエンスアゴラに出展するのは、今後の海洋教育推進活動に有効であり、2016年度も出展したいと考えている。
なお、サイエンスアゴラのサイトで公開されているサイエンスアゴラ2015開催報告の以下のページに本企画の開催報告が公開されているのでご覧いただきたい。
http://www.jst.go.jp/csc/scienceagora/reports/2015/program/booth/da_312/最後に、研究成果発表ポスター資料をご提供いただいた古谷研会員と安田一郎会員、「海のトリビア」全国巡回展資材の展示利用に際しご協力頂いた「船の科学館」に厚く御礼申し上げます。